ゴリオ爺さん – バルザック

何年か前に友人との話の中に出てきて、興味をもって読んでみたが、すっかり忘れていて、これくらいの年になってきて経験が増えてくると、小説が実感を持って面白くなってくるようで、空き時間を見つけては本を手に取り、一気に読んだ。
フランスの話なので、慣習など親しみのないところはあり、希望の国のエクソダス二出てくる「カミュやジェネは優れた作家だと思う。だが、基本的におれたちのものではなくフランス人のものだ。」という言葉が思い出された。
翻訳された文章というものも、受け取り方が日本の小説とは変わってくるので、それも含めて外国の文学は、基本的には外国人のものと言って良いかもしれない。

 

こうした家具類がいかに古び、ひび割れ、腐り、がたがたし、虫食い、片端で、めっかちで、半身不随で息絶えだえであるかを説明しようと思えば、詳しい描写をしなければならないが、そうなればこの物語の進行をあまりにも遅らせるにちがいなく、そんなことはせっかちな人々が許してくれないだろう。

いかにも物語的な物言いに心が踊る。

 

もしかしたら、ほんとうの謙虚さとか弱さとか無関心から、すべてを耐え忍ぶ人間にたいして、あらゆることを耐え忍ばせるというのが人間の本性なのかもしれない。われわれは誰でも、誰か他の人間ないし何かあるものを犠牲にして、自分の力を見せびらかすことを好みはしないか?

 

彼女の憎しみは愛情に比例したのではなく、裏切られた期待に比例したのだ。人間の心は愛情の高みを登りつめると休息を見いだすが、憎しみの感情の急坂を下るときは、めったに止まらないものなのだ。

 

ただ彼女は、身近の人間はやたらと疑うくせに、どこの誰ともわからない相手には気を許す多くの人たちに似ていた。

 

「霧のせいですよ。庖丁でぶった切らなくちゃならないほどの」

 

ふたりして木の切株みたいに眠りこけてるんですよ

 

羊肉(マトン)の残りにじゃがいもをつけあわせ、焼き梨をだしてちょうだい。

食事に焼き梨が出てくるあたりが日本とは違っている。

 

公爵夫人はウージェーヌのほうを向き、男の頭のてっぺんから爪先までなめまわして、ぺちゃんこにし、ゼロの状態に返してしまうあの不遜な目つきで彼を見た。

 

「世間て恥知らずで意地が悪いのね」と、ようやく子爵夫人が言った。「何かの不幸がこちらの身にふりかかると、すぐ友だち顔してやってきて、そのことを知らせてくれ、短刀でこちらの心臓をぐりぐりえぐっておきながら、短刀の柄のすばらしさを自慢するひとが、いつだっているものなのね。さっそくもう皮肉を、嘲笑を浴びせられるなんて! そうよ、あたしも負けていないわ」

 

そうすればあなたにも、世間というものがどういうものか、つまりお人よしとペテン師の集まりだということがわかるでしょう。

 

おれの性格を知りたいかね? おれは、おれによくしてくれる人間とか、おれとうまが合う人間には親切な男だ。

 

だから正直者ってのは、共同の敵なのさ。しかし、正直者ってのはどんな人間だとおもうかね? パリでは、正直者とは黙りこんで、仲間入りするのを断る人間のことさ。

 

もうひとつ君に忠告させてもらうとだな、坊や、自分の言葉にも意見にもこだわるなってことだ。売ってくれという奴がいたら、売ってやるがいい。絶対に意見を変えないと言って自慢する男なんて、いつでもまっすぐ進むのを務めと考えているやつ、自分は絶対誤たないと信じこんでるばか者でね。原理なんてのはない、出来事があるだけだ。

 

便箋の匂いを嗅いだあとで、彼はつけ加えた。「なんていい匂いだ! あの子の指がこいつにさわったんですなあ!」

ここら辺からゴリオ爺さんの気持ち悪い描写が目立ってくる。

 

「ああ! それをわしにくださらんか」とゴリオ爺さんは言った。「なんですって! 娘が、わしのかわいいデルフィーヌが、そこに涙を流したって! 小さいとき泣いたことのなかったあの子が! ああ! 別のを買ってさしあげるから、それはもう着ないで、わしに置いていってくださらんか。」

 

わしはあの子たちに、病気だとは思われたくないんでな。舞踏会に行くのもやめて、わしの看病をするでしょうからな。ナジーが明日、自分の子供に接吻するみたいにわしに接吻してくれる。あの子の愛撫を受けたら、わしの病気も治りましょうて。

 

この女を所有してみて、ウージェーヌは自分が、それまでは彼女を欲求していたにすぎないことを悟った。幸福を味わった翌日になって、はじめて彼女を愛したのである。愛情とはあるいは、快楽にたいする感謝の念なのかもしれない。

 

実際、どうして偉大な感情が、みみっちくて、しみったれていて、浅薄な社会などと折り合って行けるだろうか?

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