心はあなたのもとに – 村上龍

コインロッカー・ベイビーうや5分後の世界や希望の国のエクソダスなんかのような村上龍を代表する作品とは少し違った感じで、争いや破壊みたいなことはなく、病気を抱えた女と充実した仕事を持った男との話。長編小説だが、終わりの終わりになるまで、男の家族に関しての話が薄く、女たちとの話がほとんどであった。久しぶりに出てくる登場人物に関する描写が説明的で、途中から読んだ人間に伝えているような気さえした。

二十代で最初の結婚に失敗したとき、離婚がいかに時間と労力をロスするか思い知って、家族間の信頼の重要性に気づき、信頼を維持するための努力を惜しまないようにした。具体的には、家族との約束は確実に守り、いっしょに過ごすための時間を確保し、家族からの依頼を最優先させるというようなことだ。

確か北陸の生まれで、祖父母に可愛がられて育ったようで性格もよかった。性格がいいというのは、幼少期のトラウマがなく、自己評価がまともで、普通にコミュニケーションができるという意味だ。

それで、もう一つ言うと、元気な女だよね。よく喋るとか、タフとか、そういう意味じゃなくて、いっしょにいるとポジティブな気分になるってことだけどね。

大村のことは前もって話してあったが、九州有数の資産家だという触れ込みの男が、地味なスーツを着て、ごく普通の中型国産車を運転して現れたので、ミサキも「サクラ」も最初拍子抜けしたような顔をした。大村はそういう男だし、また本当の金持ちとはだいたいそういうものだ。金持ちだということを隠したがる。

演奏はジョン・コルトレーンで、「バラード」というアルバムのトップチューンだが、曲名が思い出せなかった。

われ退屈よりも苦悩と刺激を選ぶものなりって、そういうことですたいと笑った。

女の気持ちと行動は市場より複雑で基本的に理解不能だ。だが対応するためには想像しなければならない。

装飾性が徹底して排除されると真の洗練が生まれるという見本のようだった。

ミサキちゃんはとてもいい笑顔で、よく笑うから、少なくともそういった仕草だけは親から学んでいるんだよ、わたしは教えた。虐待を受けて育った人の中には笑顔を上手に作れない人がいるし、声を上げて笑うことができない人もいる、というようなことも言った。

自分にとってどんなに大切な人でも、非常に重要で、しかも自分が関与できないその人固有の現実があり、その人が大切であればあるほど、自分はその現実を受け入れなければならないという理解が、他人という概念を育てる。他人という概念を持っていない人間は、愛されているという実感を持つことができない。

わかりませんという仕草をすると、婦人は流暢な英語で、一人よりも二人のほうが人生は楽しい、そう言って微笑んだ。

欧米の富裕層の男は基本的に家庭を大切にする。宗教的な理由もあるが、個人主義の社会なので、歳をとってからの孤独がいかに恐ろしいかを知っているのだ。

良い家族関係を維持するよりも家庭を崩壊させるほうがむずかしい。だから家庭を崩壊させてしまう人間は単に良い家族関係を維持する意志や能力がないというだけだ。

男と女なんて惚れたら必ずぐちゃぐちゃになる。

しかし、どうしえ男は、この女は自分といっしょにいるほうが幸福になれるはずだと思いたがるのだろう。

結局、大事な人のそばにいるのはとても大事だけど、それはとても疲れることで、そのことは相手が病気でなくても同じで、実はそれがわたしが結婚しない理由なのだと、ルミコは苦笑しながらそういうことも言った。

落ち着け、とまず自分に言い聞かせ、目の前の現実にどう対処したらいいのかわらないときは、最優先事項を明らかにしなければならないという、昔の大投資家の言葉を思い出した。

わたしも知らなかったけど、透明なペットボトルをいっぱいいっぱい挿入して、ペンライトを入れて照らすと、あそこの中とか、お尻の穴の中がね、子宮口とか直腸の入り口とかまで、きれいに見えるらしいんですよ。

そして毎回ドイツのある自動車メーカーの話で締めくくった。統合後不況に見舞われたドイツ製造業では旧東欧への工場移転が増え、リストラが進行したが、ある自動車メーカーが歴史に残る広告を打った。わが社は広告費を削減することで、従業員は一人たりとも解雇しないと決めました。したがってこれが最後の広告となりますが、今後もみなさんの支援をお願いします。その広告は、労働争議が相次いで社会問題となっていたドイツで話題となり連日マスメディアで取り上げられ、驚くべき宣伝効果をあげて、他企業がすべて赤字に転落する中でその自動車メーカーだけが売上を伸ばした。

二つのバランスが不安定になったときの解決策は二つしかない。一つは会う機会と時間を減らすこと、もう一つは、関係性の変化に目をつぶり、あえて考えないようにすることだ。

あなたはお父さんが道楽者だって言うけど、児童心理学的に言うとね、父親の役目は子どもたちにね、自分の世界は自分でエクスパンドできるってことを教えることなのよ。

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