山の音 – 川端康成

11月に入るとイラストを描いて、たくさんの人に見てもらえる機会ができた。
ギャラリーで高い金額を支払って展覧会をやって、絵が売れたって半分をギャラリーに持っていかれるような見せ方をするよりも、今のやり方の方がずっと多くの人に見てもらうことができる。

そういうわけで、ここでのイラストはしばしお休み。

岩乗(がんじょう)

頑冥(がんめい)

頑固で考え方が柔軟さを欠き、物事の道理がわからないこと。

はっきり手を出して妻の体に触れるのは、もういびきをとめる時くらいかと、信吾は思うと、底の抜けたようなあわれみを感じた。

頂上の木々のあいだから、星がいくつか透けて見えた。

具合よく

ここでは貞操観念が失われているのではない。男は一人の女性を愛しつづける苦しさと、女が一人の男を愛する苦しさに堪えられず、どちらも楽しく、より長く相手を愛し続け得られるために、相互に愛人以外の男女を探すという手段。つまり互いの中心を堅固にする方法として…。

近頃の娼婦である。背を丸出しにして、布のサンダルをはき、いい体である。

あの野生の娘が一尾の伊勢海老をどう料理して、外人に食わせるのだろうか。

陰った(かげった)

三十幾年後の今、信吾は自分たちの結婚がまちがっていたとはお持っていない。長い結婚生活は必ずしも出発に支配されない。

幸福に見える嫁を好いて、不幸に見える娘をきらうように聞こえた。残酷な悪意を含むかと疑われるほどだ。

菊子は信吾の年齢の心理まで邪推はしない。信吾を警戒もしない。

「私が通弁してさしあげますわ。」
「通弁か。どうせばあさんのひとりごとなんだろう。」

父は家の相続人なしに、残生を送る決心をしたものとみえる。

面映(おもば)ゆい

きまりが悪い

「しかし、女にはどの女の気持ちもみな分ると思うのもどうかね。」

頓死

にわかに死ぬこと。急死。

「気ちがいには年齢はないさ。われわれも気が違ったら、大いに若返るかもしれないよ。」

自分はあんあに絶望的な愛情をこめて、妻の名を呼んだことが、一度だってあっただろうか。外地の戦場にいた修一の、ある時のような絶望も、おそらく自分は知らずに来たのだろう。

年寄りの冷水と早起きは、いやがられますよ。

顔はみっともないが、乳房は色も白くて、みごとである。

当時の日本でも色白が良いとされているよう。

「男も女も書き置きするのは、若い人の心中ですよ。それも、いっしょになれないのを悲観してとかいう…。夫婦なら、たいてい夫が書けば、それでいいし、わたしんあどがいまさらなにを言い遺すことがあります?

当時の日本人は男性も女性もこういう考えだったのだろうか。きっとそうだったのだと思う。それから急に男女平等や女性の社会進出となったのだろうから、うまくやれない男女が出てくるし、日本の場合、そちらの方が多いように思う。

菠薐草(ほうれんそう)

行李

(こうり)とは、竹や柳、籐などを編んでつくられた葛籠(つづらかご)の一種

乳房は柔らかいままだった。張ってこないのは、女が信吾の手に答える気もないのだ。なんだ、つまらない。

「なんだ、つまらない。」というのは、森鴎外の死ぬ時の言葉だったと、信吾は気がついた。

人事を尽くして天命を待つんだな。

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