ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く – 室橋裕和

昨年は半年くらいを日本ですごして、実家で親の様子をみながらずっといるのに疲れると新大久保に宿をとって2,3日を過ごした。

https://masatoshigoto.asia/after-the-4th-year

1度目に行ったときから、その雰囲気にやられた。
どうも日本っぽくないのだ。日本人以外の人たちがたくさんいて、店も多種多様。弁当が290円で売っていたり、コンビニで働く人たちも上手な日本語を話すが、どこか別の国の人。とにかく、この街が気に入って、日本で暮らすことがあるとすればこの街にしようと思って、通りの不動産屋の看板を見て、当たり前だがバンコクとは比べ物にならないくらいに高くて、すぐにやめようと思い直した。今あたらめて思う、こうしてバンコクで衣食住の必要な支出を少なく、仕事ができているのは、とにもかくにもまずは幸せだなと。

ものすごい寝ぐせの髪の店主は、ニトリの中古らしきキッチンカウンターを適当にメジャーで測ると、「これ1万6000円だけど…1万5000円、いや、1万3000円でいいや」と、アバウトにディスカウントしてくら。
代金を払うと、配達するので名前と住所、電話番号を書くように言われる。手渡されたのはチラシの裏っかわであった。僕の住所見た店主は、
「あ、近いね。午後には持ってけるよ。2時くらいね」
きわめてイイカゲンな口約束やや不安を覚えたが、配送料は無料だというl.

ナゾの中国人とふたり、えっちらおっちらキッチンカウンターを運ぶ。狭い廊下や曲がり角では思いっきりぶつけてしまうが、彼に気にする様子はまったくない。この程度で怒るやつはきっと、この街に住んではいけないのだろう。
これまた狭い部屋を苦心して大きな荷物を運び入れると、お互いにこの寒い中、汗をぬぐって笑いあった。

日本という「外国」で暮らす、いろいろな国からやってきた人々の姿。日本に急増しているという外国人。そのひとりひとりの顔が、この街ではよく見える。

彼女はまたにんまりと顔全体で笑うと、薄暗い店が一気に東南アジアの湿度を帯びたような気がした。

籠絡

ろうらく

かまびすしい声

住民の40%が外国人

新宿区34万6643人のうち外国人3万8352人(外国人率11.1%)、日本全体となると人口およそ1億2600万人のうち、外国人283万人(外国人率2.2%)だ。大久保界隈がいかに突出した外国人エリアであるかがよく分かる。

一方でベトナム側では「海外雄飛」を、是非はともかく推奨してきた。在外ベトナム人からの送金が、GDP(国内総生産)の6%を占めるまでになっていたからだ。

4月の下旬になると、新大久保駅のすぐ西側にある皆中稲荷神社で小さなお祭りが開かれた。つつじ祭りだ。境内には屋台が並んでいるのだが、そのラインナップがタイ料理であり、ケバブや台湾料理であるのがいかにも新大久保だ。タイの屋台のおばちゃんなんて、浴衣姿で日本人の子どもたちに日本語で声をかけ、マンゴージュースやパッタイ(タイ風の米麺焼きそば)を売っている。

そこで日本政府は、中国人や韓国人の穴埋めとして、東南アジアや南アジアに目を向けるようになる。とくに海外志向の強いベトナム人やネパール人を対象にビザの要件を緩和した。これを機に、いままでなじみのあまりなかった国々の若者が、日本全国に増えはじめるのだ。

中には日本人より日本語が達者な人だっている。むしろ、日本語は少し分かるけど、英語はぜんぜんわかりません、なんて人も珍しくはない。第一、ここは日本なのだ。
「どれだけ外国人のお客さんが増えようと、ここは日本の八百屋なんです。それはもう、ずっと変わらないスタンスです」

新宿八百屋

この八百屋の看板は、新大久保に通っていた頃に僕の目を捉え、それから新大久保をテクテクとあるき回り、面白い看板を探すきっかけになった。

「はじめに雇う時に言ってあるんです。日本語でしか接しないよ、って。それでも頑張れば日本語は上達するし、収入にもなるからと」

そのひたむきさは、いまの日本人には欠けてしまったものなのかもしれない、あるいはもう日本人には必要なくなってしまったものなのかもしれない。そんなことも荒巻さんは言う。

「28万円」
まじで!? 思わず声が大きくなった。フランス人だというお客が振り返る。腹の立つことに若いイケメンで、チャンちゃんがいつもより1オクターブ高い声で接客しているのがさっきから気になっていた。「バケモノガタリ」がどうとか日本語で盛り上がっている。アニメの話らしい。
「私がいるでしょ」
「はい」
僕の視線に目ざとく気づいたトゥイさんにたしなめられる。あの若造はともかく、この店にも最近はそこそこお客が入っているので、ほっとする。

「習うより慣れろ。日本で教えてもらった言葉です。ベトナムでも同じですよね」

自分の主義主張を世の中に広く問える面白さがある。

「自分にはなにができる? それ考えるでしょう。なんだったら仕事になるか。そしたら私、お客さん相手にすることだと思ったよ」

でも、店を開けていればいやな客も来るだろう。とくに日本人は、なぜだか上から目線のおじさんが多い。僕もあるバイドのチャンちゃんに執拗なセクハラをする日本人のジジイに腹を立てたこともある。心配になるが、
「私、誰でもOKだよ。どんなひととでも楽しくやれる」
なんて自信たっぷりに笑うのだ。

「勉強もしたかったけど、それよりも日本で生き抜くこと」

はっきりとは言わないが「なんでガイジンが」と心ない言葉を浴びせられることもあったようだ。

店はもう7年目に入り、街にすっかり定着してきた。しかし店名の由来を知る人はあまりいない。「おかやま」とは、岡山ではないのだ。漢字で書くと「お母山」となる。お母さんの山なのである。
「お母さんの愛情って、山みたいでしょう。大きくて、高くて。そんな気持ちを感じられる店にしようって、お父さんとふたりで決めたの」

まずは信用を得て、人間関係をつくり、それから店に来てもらうというわけだ。地道な営業努力なんである。なんだか地方の信用金庫のようだ。
「一度信頼してもらえると、今度はお客さんが友達や仕事仲間を連れてきてくれます。口コミやSNSで宣伝してくれることもあります。広告を出したりプロモーションを打ち出すよりも、新大久保ではまず人間関係なんです」

こうした海外送金の市場規模は全世界でなんと70兆円。日本でも年間取扱高は9000億円にのぼるという。

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