色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 – 村上春樹

久しぶりに村上春樹を読んでみたくなり、これまで読んだことのなかったこれを古本屋で購入。

村上春樹は有名なだけに良くない声も沢山聞くが、ぼくは羊以外は好きで、一時期熱心に読んでいて、特に少しまわりくどいようにも感じる文体や比喩表現が好きで、この小説からも気になるところがたくさん拾えた。

読み終えてとこれまで読んだ村上春樹作品の中で一番良かったと感じている。
海辺のカフカや騎士団長殺しも良かったのだが、これが一番現実的だったのではないか、騎士団長殺しには小人か何かが出てきたはずだし、海辺のカフカにも何かピエロか何かがでてきたんじゃなかったっけ。と思ったけど、色彩を持たない多崎つくるでもピアノの上の袋なんかが不思議なものだったが、全てが現実にとらえられるもので、小人やピエロも何かのメタファーなのだろうけど、ファンタジーっぽい表現よりも現実的な表現に惹かれるから。
それでも、今現在僕が思うことの答えや、疑問への何かがいくつか出てきて、やっぱり小説を読むのはおもしろいなあと思いながら毎日長湯をしながら楽しく読んだ。

おれが言いたいのは、上手な負けっぷりも運動能力のひとつだということだよ。

三度目に会ったとき、食事のあと彼の部屋に行ってセックスをした。そこまではごく自然な流れだった。そして今日がその一週間後。微妙な段階だ。このまま進めば、二人の関係は更に深いものになっていくだろう。彼は三十六際で、彼女は三十八歳。当たり前のことだが、高校生の恋愛とはわけが違う。

着こなしの上手な女性を見るのは昔から好きだった。

時間をかけて彼女の肌を撫でるのは素敵だったし、射精を終えたあと、その身体を抱きながら優しい気持ちになれた。でももちろんそれだけでは済まない。そのことはわかっていた。人と人との結びつきなのだ。受け取るものがあれば、差し出すものがなくてはならない。

「限定された目的は人生を完結にする」

ヴォルテールが言いたかったのは、思考よりはむしろ省察と言う事なんじゃないのかな」と作るは言った。
相手はわずかに首をかしげた。「省察省察を生むのは痛みです。年齢ではなく、ましてやでもありません」

フランツ・リストの「ル・マル・デュ・ペイ」です。「巡礼の年」と言う曲集の第一年、スイスの巻に入っています」

コックはウェイターを憎み、どちらもが客を憎む

独創力とは思慮深い模倣以外のなにものでもない。

そして休学届けを出し、一人で全国をあてもなく移り歩きました。肉体労働をして生活費を稼ぎながら、暇があれば本を読み、多くの人々と触れ合い、人生の実地経験を積んだということです。

僕が知る限り、父はおおむね家と職場を行き来するだけの生活を送っていました。不思議なものですね。どんなに穏やかに整合的に見える人生にも、どこかで必ず大きな破綻の時期があるようです。来るための期間、と言っていいかもしれません。人間にはきっとそういう節目みたいなものが必要なのでしょう。

ラウンド・ミッドナイト

ああ、才能と言うのはたしかに時として愉快なものだ。見栄えもいいし、人目も惹くし、うまくいけば金にもなる。女も寄ってくる。そりゃ、ないよりはあったほうがいいだろう。しかし才能いうのはな、灰田くん、肉体と意識の強靭な集中に支えられて、初めて機能を発揮するものだ。脳みそのどこかのネジがひとつ外れ落ちてしまえば、あるいは肉体のどこかの結線がぷつんと切れちまえば、集中なんぞ夜明けの頃のように消えちまう。例えば奥歯が疼くだけで、ひどい肩こりがあるだけで、ピアノはまともに弾けなくなる。本当だよ。

「考えてみれば、なんだか不思議な話よね」と沙羅は言った。「そう思わない? 私たちは基本的に無関心の時代に生きていながら、これほど大量の、よその人々についての情報に囲まれている。その気になれば、それらの情報を簡単に取り込むことができる。それでいてなお、私たちは人々について本当にはほとんど何も知らない」

しかしもちろん彼女には彼女の生活がある。そして言うまでもなく、彼女の生活のほとんどの部分は、彼の知らない場所で怒られ、彼とは関わりのない物事で成り立っている。

「よく人に聞かれるんだが、意味はまったくない。ただの造語だよ。ニューヨークの広告代理店がトヨタの依頼を受けてこしらえたんだ。いかにも高級そうで、意味ありげで、響きの良い言葉をと言うことで。不思議な世の中だよな。一方でコツコツと鉄道駅を作る人間がいて、一方で高い金をとって見栄えの良い言葉をでっち上げる人間がいる」

おれが覚えているのはシューマンの曲だけだ。「子供の情景」の中の有名な曲。「トロイメライ」だっけな。

何はともあれ、できるだけ自分に正直になるしかないだろう

それは石のように硬く揺らぎない完璧な勃起だった。

でも話はそれほど簡単では無いはずだ。人は日々行動を続け、日々その立ち位置を変えている。次にどんなことが持ち上がるか、それは誰にもわからない。

「才能のことはよくわからない。でも私の作品はけっこうここでよく売れているの。たいしたお金になるわけではないけれど、自分の作ったものが、他の人たちに何らかの形で必要とされていると言うのは、なかなか素敵なことよ。」

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