はじめてのタイ文学。
全12ページだけの短編。
福冨渉さん訳。
これまでみたいにチームで撮影に出ることもないし、スカスカの夢を売るクリエイティブエージェンシーや制作会社も存在しない。
そうしながら祖母のつばを拭いたティッシュの塊を足の指でつまんで、ゴミ箱に捨てた。
老いは、祖母のもっていた複雑さをずいぶんとそいでいる。とはいえ祖母が死を望んでいるのか、このまま空虚に生きていたいのかは、外から見てもわからない。
ところがそこで祖母は転んでしまう。年老いた骨はあっさりと折れて、雨と泥のなかを痛みにうめきながら明け方までのたうつことになった。
彼女は悲鳴を上げたかった。走り出して、かつて猫だったものと一緒に道路に転がって、とっとと全てを終わらせてしまいたかった。